絵を描く上で考えていること

 

 

「死んだら昔のこととかその時の気持ちとか、どこ行っちゃうんだろうね」。

 

世界というのはただひとつ固有の世界があるわけではなく、

それぞれの人間の見たものがその人間にとっての世界を作っていて、

人が亡くなればその人の思い出も丸ごと消滅してしまう。

それが恐ろしくて悲しくて、だから私は絵を描いている。

 

 

モチーフは例えば、

元捨て猫だったうちの猫。奇跡のように毎日を楽しくしてくれる。

夫が買ってきたトムとジェリーのガチャガチャのおもちゃ。

おもちゃはかわいいけどむかつく思い出がある。

夫が小さかった頃に遊んだ怪獣の人形。私の知らない彼の子供時代を思う。

バイト先で知り合ったおばさんにもらったくまの手作り人形。

おばさんの名前は忘れたしもう二度と会うことはない。

自然と会わなくなっていった友達と昔行ったベトナム旅行のお土産。

もう旅行自体の思い出も薄れている。

 

取るに足らない物たちが私の生活の中に点在している。

それらはやがて私から忘れられ、思い出され、また忘れられ、最後は私が旅立つ。

その後でも私のいなくなった世界に、私の思い出が残っていてほしいと願う。

そのために絵を描いている。

 

 

 

技法とモチーフ

 

和紙に油彩で描いてからパネルに貼る。

モチーフは私にとって思い出深い静物や生き物。

モチーフすべてに思い出があり語ることが出来る。

 

 

 

余白のこと

 

絵の具の滲みと余白を持たせた構図が私の絵の特徴かもしれない。

余白を持たせるのは理由がある。

何かを思い出す時って必ず「思い出さないもの」込みで思い出しているから、

思い出さないもののスペースをちゃんと入れないと嘘になる。

余白はその思い出さないもののための場所。

 

物を見る時も同じ。

何か一つの物にピントを合わせて見るということは、

同時にピントから外れた「見ないもの」込みで見ている。

 

私は制作時に実物のモチーフを目の前に置いて見ながら描いているから、

「見ないもの」「思い出さないもの」も描かないとモチーフを描いたことにならない。

だから余白を持たせる必要がある。

 

 

2022年4月28日